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本当に驚いたときには、意外と何もできないもんだ。
俺が二の句を継げずに凝視しているのに気づいたのか、女の視線がついとこちらへ向けられる。
「そちは…」
「北村鋏介よ、今朝やっと捕まえたの」
女でも俺でもなく、早瀬が答えた。
「そうか」
その一瞬、垣間見えた微笑みはあまりに綺麗すぎて、何故か胸が痛んだ。
しかしそれも束の間、女は元の感情が読めない無表情に戻ってしまう。
「それで、もう『がいだんす』とやらは済んだのか」
「お陰様で全くこれっぽちも済んでないわ」
「ガイダンス?」
「でも、背に腹は代えられぬって言うし、ね」
俺の発言は完全に無視された。
「そういうわけで、北村くん」
「おぉ」
「目の前で起きた惨事は平家の亡霊が起こしたものよ」
「…は?」
「そして彼女は源氏の生き残り、歴史の上では健礼門院徳子と呼ばれた人」
「けんれいもんいん…?」
「夾でいい」
「…らしいから、呼ぶときは夾で呼ぶように」
「…はい」
夾の方をちらりと見た。
心なしか、睨まれている気がした。
「で、あなたには今から平家の亡霊さんたちをぶちのめすのを手伝ってほしいの」
「え?」
「夾、例のものを」
早瀬の言葉とほぼ同時に、夾がどこからともなく細長い包みを取り出し、俺の目の前に乱雑に放り投げた。その衝撃で包みが乱れ、中のものが見える。
「…刀?」
「御名答ね、北村くん」
早瀬がニヤリと笑う。
「その刀を持って、悪いやつらを退治してきてくれればいいの。詳しい説明は後でするわ、見ての通り時間はないからね」
早瀬が顎でしゃくった先、食堂の方では何度目かの小爆発が起こったところだった。さっきより煙と炎の量も多いし、テラスにはいつの間にか俺たち3人しかいなくなっていた。
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