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私はなんだか見てはいけないことを見てしまった気がして、その場から逃げるために風呂に入ることにした。あの場所にはもどりたくなくて、風呂はいつもより長く入った。
風呂から上がっても、あの場所は変わっていなかった。父と母が斜め向かいで座っていた。
父が口を開く。
「相手は誰なんだ。」
母は黙ったままでいる。
「相手は誰なんだ。」
「…。」
短く、長い時間が流れる。
母の目には水がたまっていた。
「なんで名前を言えねぇんだ!」父が語尾を荒げて言う。
「すいません、すいません。でも、相手は何も悪くないのよぉ!」母が泣きながら言う。まるで子どものように、顔を歪めて。
「なんで言えねぇんだよ!まだ相手を庇う気なのか!」
「すいません。でも、相手の人は本当に悪くないからぁ…」
この2人は夫婦なのか、と疑うような光景。父に似ている男が暴言を吐き、母に似ている女が泣きながら土下座をしている。
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