偶然─ひつぜん─

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俺は茂みから気ずかれないようにそっと老人を探した。 しかし、 老人は何処にもいなかった。 「何だったんだ?」 俺は今起こったことは きっと夢だったのだ と自分に言い聞かせパトロールを再開しようとしたとき、 背後に人の気配を感じた。 俺はすぐさま行動に移った。 勢いよくしゃがみ、 右足で背後の相手の足元を払った。 相手は不意を突かれたようで難なく命中。 しかし、 それでも相手は即座に受け身をとって体勢を立て直す。 「こいつ、できるな…」 俺は改めて相手を確認して驚いた。 そこに立っていたのは、 先ほど何処からか現れた老人だったのだ。 その老人は、 パッと見六十代から七十代。 しかし、 不意を突かれたのにすぐに受け身をとったその身のこなし。 そんな動きがこんな老人にできていいものなのか。 俺は自分の目を疑っていると、 老人の口から言葉が発せられた。 「見られたからにはお前さんを、殺らなけりゃいかんのじゃ。許せ。」 そう言ったかと思ったら、 老人は何かを呟き始め、 そして両腕を俺に向かって突き出した。 何をするつもりだ? と思った直後、 俺ははっとなった。 突然光始めた空間。 そこに現れた並外れた運動神経を持った老人。 これらを繋ぐ単語が一つ。 俺は気ずくのが遅すぎたのだ。 そう、 老人は「悪魔」だった。 もう俺は動けなかった。 腰が抜けたわけではない。 目の前の現実に、 ただ純粋に動けなかった。 ふと気付くと、 俺の足元に魔方陣が完成していた。 それでもなお、 老人は何かを呟き続ける。 すると徐々に魔方陣が形を変えていった。 そして新たに完成した魔方陣を俺は見たことがあった。 俺は口も、 舌も動かない中でも叫んだ。 「やめろ…待ってくれ…やめろ。やめろおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ…」 突然俺のからだが光始めた。 それに追従するかのように熱を帯びていくからだ。 からだの再構築が始まるのだと俺は経験上知っていた。 悪魔達が味方を増やす方法は二つある。 一つは悪魔どうしで子供を作ること。 もう一つは、 人間の肉体を媒介にし、 新たに悪魔を造ること。 俺はからだを駆け巡る激痛に堪えきれず意識を失った。
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