偶然─ひつぜん─

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「いってぇぇ」 俺はおもいっきり鼻を壁にぶつけた痛みで目が覚めた。 どうやらここは馬車か何かの中のようで、 そして俺は太いロープで縛られていた。 何故俺は縛られ何処かに運ばれているのか、 まだはっきりしない頭で必至に考えていると、 聞いたことのある声が後ろから聞こえてきた。 「目が覚めたかの~。」 そこにいたのはパトロール中いきなり現れたあの老人だった。 俺はとにかく冷静になることに勤めた。 「お前は俺は何処に連れていくつもりだ。」 「我らの国、ノウヘブンにじゃ」 「何のために。」 「お前さんを悪魔にしたからじゃ。」 そう言われて気付いたが、 確かに自分の体から溢れるように力がみなぎっていた。 「何故あんたは俺を殺さずに悪魔にした。そして何故俺にはまだ昔の記憶があり自我がある。」 人が悪魔になったとき、 人だったときの記憶と自我が消えることから、 『心忘人』と呼ばれている。 「質問の多いやつじゃ。まずワシは殺しは好かん。そしてお前さんのことはワシにもサッパリじゃ。確かにお前さんは悪魔になっとるから通常なら記憶がなくなり自我も消えるはずなんじゃがの~」 そう言って老人は難しそうな顔で何かを考え始めた。それっきり何も会話はなく、 だんだん辺りが寒くなっていき、 さすがに寒さに凍え始めた頃に、 ようやく俺達は何処かに到着したようだ。 「ようやく着いたの~」 分かってはいたが、着いてしまうとまた絶望を感じさせてくれた。 「此処が…ノウヘブン」 俺はそれを見て呆然と立ち尽くした。
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