『糸口』

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相変わらずの江戸の光を浴びながら、一人の男が縁側で文を読んでいた。 時折吹く風が、男の長い漆黒の髪を楽しそうに揺らすが、男は煩わしそうに額髪を掻き上げる。 「少年か……」 形の良い唇から零れた言葉は静かに庭に落ちていった。 其れをぼうっと見ていた男は、不意に後ろを向いて微笑んだ。 「そんな所にいないで、こっちにおいで」 男の視線の先には、男を凝視する一人の赤子。 「おいで、朔夜」 男はそう言って手を広げて見せる。其れを見た朔夜と呼ばれた赤子は、男の膝の上に登ると満足気に笑った。 何時もは母親に抱えられている存在の温かさに、男が思わず微笑んだ刹那、背後から女の声が飛んできた。 「悠助、朔夜を見なかった?」 「朔夜なら此処にいるよ」 男、元へ悠助は腕の中にいる赤子を、女に見せるために振り返った。綾菜は其の姿を見て微笑むと、悠助の隣に腰を掛けた。 「……平和ね」 縁側に足を投げ出すように座った綾菜は、そう言って眩しそうに目を細めた。 「俺達はこの先、平和なんて言っていられないだろうな」 悠助は、己の結い上げられた髪を引っ張る朔夜を見詰めながら呟いた。 「……龍影からの文には何が書いてあったの?」 綾菜の言葉に、悠助は無言で文を渡した。 綾菜は其れを静かに広げる。 .
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