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「桐条の医者に診てもらったが、エルザの脳にはなんら問題が無いようなんだ。記憶の分野まで詳しく調べることは出来ないかもしれないが、それでも痕跡が全くないのはおかしい。原因不明だ」
為すすべがない、とそう言って美鶴は深くソファに身体を預ける。
「記憶が……ない」
ゆかりは口からつい言葉が漏れる。
反芻しただけの言葉だったが、それは自分の中にじわじわと染み渡っていく。
「記憶が無い?そりゃラッキーッ!!」
って順平っ!?
「これからエルザちゃんの記憶を俺らでバラ色にしちゃえるじゃん!特別課外活動部-愛と友情の日々-みたいなスバらしい記憶をさ!うぉー、燃えてきたぜー!俺の中の漢が燃え上がってきたぜーっ!!」
あちゃー。
これは間違いなくやっちゃったでしょ?
順平の余りにも場違いな空気の読めないとんでもなくお気楽な軽口にゆかりは恐る恐る周りを見渡した。
案の定部員達は苦笑いをするか目を泳がせるかで態度を示していた。
美鶴は額に手を当て溜め息を一つつく。
エルザに至っては俯いたまま肩をふるふると震わせている。
「ご、ごめんね、エルザちゃん?順平くんも悪気があってあんなこと言った訳じゃ……」
苦々しくもフォローにまわった風花の言葉は最後まで発せられることは無かった。
なぜなら、
「……ぷっ、あはっあーはははっはっは!!あーはっはははははっは!……く、苦しイ、お腹イタイ~」
いきなりエルザが大爆笑し始めたからだ。
お腹を抱えてソファの上でじたばたと暴れるエルザは心の底からおかしそうに笑っていた。
横に座っている美鶴は信じられないといった顔でエルザを見つめている。
「私といるときは全く笑わなかったのに……全くやれやれだ」
順平の軽口がツボに入ったらしくエルザはそれからも順平が言うことすべてに大爆笑の反応を見せた。
順平も調子に乗って何か面白いことをしようとするものだから、巖戸台分寮はさっきまでの鬱々とした雰囲気から一転、お祭り騒ぎの様相を見せた。
結局騒ぎが鎮まったのは12時過ぎ。
心地良い疲労を感じながら部員達とエルザは部屋に帰っていく。
エルザは美鶴の部屋を引き継いで使うそうだ。
調度品などもそのままで随分とセレブな生活を送れることだろう。
ゆかりはベッドに横になって考える。
今も学園の地下ではシャドウが蠢いている。
なんとなく彼のことを考えながら眠りについた。
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