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巖戸台分寮のラウンジでひとりの少年がソファに座ってカップラーメンを啜っている。
キャップを被った少年はカップラーメンの汁をぐびぐびと飲み干し、ぷはっと満足そうな笑顔を見せた。
彼は月光館学園二年生『伊織順平』である。
「うっはー。こりゃなかなかイイんじゃねーの? はがくれカップ麺!うぉぉ、もう一個買ってくりゃ良かったーっ!!」
「順平ウルサイ!テレビの音が聞こえないでしょ!?」
順平をショートカットの少女が怒鳴るように叱りつける。
『岳羽ゆかり』はあきれたような顔をしてテレビに向き直った。
ラウンジに設置されているテレビからは淡々とニュース原稿を読む声が聞こえてくる。
流れてくるニュースの内容は最近怪しげな人影が目撃されているということでそれに対して注意を呼びかけるものだ。
一種のオカルト的な珍ニュースというか、新鮮な情報刺激というか、そのような類のニュースだった。
少なくともゆかりはぼんやりとそう考えていた。
「へぇ、怪奇現象ってやつ?というかお化けかもなー!ゆかりッチってば、怖がってる?怖がってる?」
からかうような口調の順平の方を見向きもしないでゆかりはテレビを見続けることにした。
バカの相手なんかしてらんないっつの!
「でも幽霊かどうかは分かりませんが気をつけて悪いことはありませんよね」
ゆかりの隣に座っていた『山岸風花』が会話に入ってくる。
「自衛は意識からが大切です。油断してるとバッサリいかれますよ?」
一人掛けのチェアに腰掛けていた『アイギス』も会話に参加した。
「へっへー。幽霊だろうがなんだろうがこの順平サマが退治してくれるわ!つってな!」
そして順平の調子の良い声。
ゆかりはこの寮での生活が好きだ。
『彼』も先輩方ももう寮からはいなくなってしまったけれど、仲間たちの絆は壊れない。
居心地がいいのだ。
ニュクスという難が去ってから巖戸台分寮にはまったりとした平和な日常が訪れつつあった。
しかも今は春休み。
陽気も良くなってきてなにかとぼんやりしがちな時期である。
このまったりとした空気もそのせいだろう。
しかし不変な事柄はこの世には無い。
全てにおいて状況は打ち砕かれるものだ。
よってこのまったりとした平和な日常もある一人の闖入者によって打ち砕かれることになる。
そしてそれが短い物語の再開でもあった。
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