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慶介さんを、二度と帰らぬ世界へ行かせた憎きあの男の名前だけは……。
俺は、あの時ずっと慶介さんのそばにいた。
あの男に押されて、慶介さんが車に撥ねられた時も。
救急車に乗せられて病院に行く時も。
担架に乗せられ、手術室へ運ばれる時も。
俺は、ずっと慶介さんの手を握り締め、喉が枯れるまで叫び続けていた。
そして、手術室から出てきたドクターの非情な言葉を最初に聞いたのも俺だった。
慶介さんは、長崎から仕事で来ていたから、父親は間に合わなかったのだ。
それからの俺は、少し記憶があやふやになっていた。
慶介さんが最後に行きたかった場所。
いや、会いたかった愛する人の元。
そう、俺は病院を出てすぐに、優衣ちゃんのところへ向かったのだった。
そして、優衣ちゃんの元へ辿り着いた俺は、優衣ちゃんに残酷なことを言ってしまったらしい。
らしいっていうのは、そこら辺の記憶が飛んでいたからだ。
気が付くと、俺はいつの間にか自分のマンションに帰っていた。
一晩中、大声で泣いていたことだけは覚えている。
一晩中泣き明かして、次の日もその次の日も、俺は部屋に籠もっていた。
そして、三日目に愛奈が訪ねてきたのだった。
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