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イデカード大陸にある小さな村……そこに一人の少女がいた。彫りの深い中性的な顔立ちに茶色い肩くらいまでの髪で女性としては高い身長。
彼女の名はカヨと言う。
これは彼女が『棒』の勇者として戦い、成長していく冒険活劇である……はず。
・
「カヨ~。水を汲んできて頂戴」
カヨの母が居間にいるカヨへ声を掛ける。彼女の住む村には井戸が無いので川までわざわざ汲みに行かなければならないのだ。
「はぁ、めんどくさっ。自分で行ってよ」
カヨは腹を掻いて寝そべったまま答える。彼女はものぐさで家事や手伝いは面倒臭かってあまりしない。
「いいから行ってきなさい。母さんが優しいうちにね」
母はニコニコしているが多少語気が荒くなっている。握り締めたじゃがいもが粉々になって台所中に飛び散った。
「やだよ! ほら今勉強してるし」
しかし彼女は頑なに拒んだ。わざわざやりもしない問題集まで出す徹底ぶりである。
「早く行ってらっしゃい。お勉強はその後すればいいじゃない」
母はそう言いながら素早くカヨの前まで走りカヨを殴り飛ばした。カヨの体が宙を舞いそのまま外まで吹き飛ばされる。
「気を付けていってらっしゃい。最近は魔物が多くて物騒だからね」
母はそう言うと倒れてるカヨに水汲み用のバケツを投げ付けてきた。
「おかしいっしょ……」
たった今物騒な目にあったカヨはバケツにぶつかった頭を擦りながら渋々水汲みに行くのだった……
・
カイナ村を出ると険しい山道が伸びている。カヨはだるそうにバケツを持って歩いていた。
「こんな小さい村で一生を過ごすのか……
こんなつまらん一生を送るんならいっそのこと旅にでも出てみたいもんだな」
独り言を呟きながらも山道を歩き続ける。文句を言いながらも足は止めない。カヨは女性ながら村一番の体力と二番目の怪力を持っている。一番目は鬼神のごとき怪力を持つカヨの母である。
「ほら見ろ。山道がきつすぎて爺さんがのたれ死んでるじゃんかよ」
山道の端に小汚い老人が倒れていた。右手にはぼろぼろの杖を握っている。
「……て人倒れてんじゃん!」
カヨは驚きつつも近くにあった木の枝を握り締めて老人に近づいた。
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