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「膝の……、皿がああぁぁぁ!!」
老人が膝を抱えて苦しがっている。しかも結構血が出てるが、今の状況では仕方がない。
「キシヤァァァァァ!!」
コボルトが棍棒を振り回しながら襲い掛かってくる。カヨは冷静にそれを見据え、躱した。
「グガァ?」
コボルトの攻撃は盛大に空振りし、その反動でバランスを崩してしまった。
カヨはその隙に守備の甘くなったコボルトの右目に木の枝を突き立てた。コボルトは痛みの余り手で目を押さえ、棍棒を落としてしまった。
「武器を落とすなんて馬鹿か? お前」
カヨはそういうとコボルトの落とした棍棒を手早く拾った。
瞬間、力がみなぎる。
「何だ……!?」
カヨの右手の甲に黒い『棒』という文字が浮かび上がる。これが勇者としての紋章だとでも言うのだろうか?
「何だこれ、直球すぎだろ。でも、力は溢れてくるぞ……!」
カヨは自分の力を感じた。そしてそれをコボルトに向けて一気に放出する。
「おらあぁぁぁあ!!」
勝負は呆気なく着いた。振り下ろしたカヨの棍棒はコボルトの脳天をかち割りコボルトは悲鳴すら上げれずに死んでしまった。
「危ねぇ所だったな……」
そう言いながらカヨは老人の方へ振り返った。
カヨの格好は服から顔まで返り血で真っ赤に染まっていて、生々しく血の付いた棍棒を握っている。その姿は勇者と言うよりは殺戮にくれる魔王のようだった。
老人はそんな彼女に言い知れぬ可能性と本能的恐怖を感じつつ、冷静に礼を言った。
「ぁあ……あ、ありが……とぉお?!」
全然冷静では無かった。ズボンが濡れているのは気にしないでもらいたい。
「そろそろ帰るか。もう日も暮れるし。ほらジジイ、おぶってやんよ」
そう言ってカヨは棍棒を握ったまま老人をおんぶした。そして来た道を辿っていく。
勇者の初陣は大勝利だった。
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