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二十分程経って二人は村に到着した。もう日は沈んでしまい、月が顔を出している。
「オイ着いたぞジジイ。ここが私の住んでるカイナ村だ」
そう言ってカヨは門を潜り村に入ってゆく。背中の老人は「うぅ……」と短く返事しただけだった。
「母さんただいま~」
「あら、お帰りなさい。随分長かったわ──」
母はまず笑顔のカヨを目撃した。そして次に血塗られている衣服と棍棒。最後に背中でぐったりしている老人。そこから結論を導きだすと……
「カヨおぉぉぉ!! あんたついに殺ったのね!!」
そう言って母は素早くカヨの首根っこに掴み掛かる。
「アンタ、いつか殺るとは思ってたけど……か弱い老人を殺すなんて恥を知りなさい!!」
そう言いながら母はカヨの首を締め上げる。考えてみれば、殺した死体を家までおぶって持って帰るなんて絶対にありえないのだが、母は気が動転してそれに気付かない。
「ぐえぇぉぉ……ちょっ待っ……ヒュー、ヒュー」
首を締め上げられすぎて気道をやっちゃったようである。
「奥さん、落ち着いて! この娘さんは私を助けてくれたんですぞ、後勇者ですから!
誰か来てくれぇ! 者が死んでしまう!」
結局興奮状態の母を取り押さえるのには村の男衆全員で半時間掛かったという……。
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「いやぁあの時は本当に気が動転してしまって……ご迷惑をおかけしましたぁ」
「家の家内がご迷惑をおかけしました……」
そうヘラヘラ笑いながら謝っているのはカヨの両親である。カヨの父もカヨの母の暴走を止めるために畑仕事から駆け付けてきたのである。
「いえいえ、我々こういうのが仕事ですから」
「そうそう、昼は畑仕事をして」
「夜はカヨちゃんと奥さんの親子喧嘩を見て、カヨちゃんが死ぬギリギリまで楽しむ」
「あの苦痛に歪む顔が何とも言えませんなぁ……」
「いやすぐに助けろよ!!」
カヨは村の男衆達の歪んだ欲求や両親の態度に呆れ果てた。こいつらは全く平和ボケしている……娘がコボルトに襲われたというのに。
「ほんっとに家の娘が人様にぃ……」
カヨの母がにやにやしながら謝罪の意を唱える。男衆は血塗れのカヨを見てにやにやしている。
「だからあんたが勝手に勘違いして暴れたんだろが!」
カヨのツッコミは日が暮れるまで続いた。
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