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「じゃっ、我々はこれで」
リーダー格の体格のいい道具屋の主人がそう告げると男衆はカヨ達に背を向けた。
「カヨちゃん。今度家においでよ」
小太りの武器屋のオヤジがにやにやしながら言った。正しくゲスそのものの表情である。
「誰が行くかっ!」
カヨがそうつっこむと男衆は満足したかのようにうんうんと頷き、本当に帰っていった。
「待ってくだされ! 村のみなさんに話したい事があります。どうか村のみなさんを集めてください!」
しかし老人のその言葉で、男衆は足を止め、振り返った。
・
「それで、話したい事とは……?」
村人の代表として、村長が老人に問い掛ける。まだ四十代だがハゲている頭と残ってる白髪が老けている印象を与える。
村の人々は皆教会に集められた。もうかなり深夜なので、母親の傍で寝息を立てている子供もいる。
「はい、実はですな……カヨと言うその娘は──勇者なのじゃっっ!!」
……………………。
気まずい静寂が訪れ暫くして男衆の一人が口を開いた。
「何言ってんだこのクソジジイ?」
「カヨちゃんは我々のアイドルだ! 愛玩していいのは我々だけだ」
「全くだとも、帰れジジイ!」
堰を切って溢れだす野次はとても女神様の像のあるところでいう台詞とは思えない。
「証拠ならあるぞい!」
若干キレ気味の老人のその言葉に野次を飛ばしていた男衆が押し黙る。老人はカヨの右手を掴み、手の甲にある『棒』という字を村人達へ見せた。
「どうじゃ、これぞ正に勇者のもんしょ──」
「なめんなよクソジジイ!!」
「表出ろ!!」
「もう夜も遅いし子供も眠たそうだから帰ります。いいですよね? 村長?」
「皆さん! 明日も早いですしそろそろ帰りましょう。……カワタくん、今日このご老人は君の家に泊めてやってくれないかな?」
「ええ!? 村長勘弁してくださいよ!」
「明日それとなく追い出すからさ、ね? ここは私の顔を立ててさ。頼むよ」
「一日だけっすよ……たく」
老人の言葉に村人達は一斉にいきり立った。もう帰ろうとしてる人もいるし、村長は木こりのカワタ君と老人の扱いについて話し合っている。
「そんな感じの紋章ならわしも見た事あるぞ」
その言葉によって騒ついていた村人達が静まった。 声のした方へと目を向けるとそこにはヨボヨボと体を揺らす長老がいた。
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