12人が本棚に入れています
本棚に追加
「もう、永くはあるめェよ」
高杉は記憶を留めておけなくなっていた。
俺と話をしたことも、
会ったことさえも。
姿はあの頃と変わらず、
ただ、奴の中の禍々しい獣は光を失っていた。
いつ頃からだっただろうか。
何かを記す為なのか、高杉は時々、俺に刃を向けるようになった。
斬り付ける訳ではない。
ただ、自分に残せない記憶を刻むように、
俺の体にほんの少しだけ刃を当てる。
痛くはない。
ただ、そうしなければならなかった高杉が痛々しかった。
切っ先が喉元に当てられる。
「オイオイ、あぶねぇって」
高杉の口元は弛み、反応を楽しんでいるようだった。
最初のコメントを投稿しよう!