エドワード・ゲイン

2/3
前へ
/10ページ
次へ
ゲインの母、 オーガスタは狂信的なルター派信者だった 彼女はふしだらな女を憎み、 酒と肉欲に溺れがちな男を憎み、 信心深くない人々(彼女は世間の殆どをそう見なしていた)を憎み、 頼りない夫を憎み、 いつか自分の手を離れて 汚らわしい悪徳に耽るであろう未来の息子たちを憎んでいた。 要するに彼女の気に添う物は、 神と、厳格足り得る自分のみだった。 そんな彼女による 頻繁な体罰と独善的な支配。 堕落しきった世の中の人間と 関わってはいけないという精神的拘束においてもゲインは彼女を愛し、 崇拝し続けた。 二人の息子にとって母親とは、 全知全能の神と違わぬほどの絶対的な存在だった。 ゲインの兄ヘンリーは42歳の時、 近所の山火事を食い止めようとして死んだ しかし死体は殆ど焼けておらず、 後頭部の傷が目立っていた。 ゲインは「火事中に兄を見失った」と警察に駆け込んだ割に真っ直ぐ死体まで案内して見せ、 それを指摘された際は 「不思議なこともあるもんだ」 と飄々と語っている。 この事件の真偽はうやむやになり 兄を殺害したのかしていないのか定かではないが、 この事件の少し前ヘンリーは母を批判し、 ゲインから引きはなそうとしていたのが後々分かっている。 兄が死に、 母親を独り占めできるようになったゲインはここぞとばかりに甲斐甲斐しく母親の介護に明け暮れた。 それも、愛する母親が生まれて初めて優しい包容をしてくれるのではないかという期待からだったが、 母親はゲインに怒鳴るばかりだった。 「お前の介護などいらない」――… それでもゲインは母親を愛し続けたが、 2年後、とうとう母親が死去。 狂信的に愛し続けた母親の突然の死に、 ゲインは昼も夜も泣き続けた。 世界でただ一人の自分の同士を、 亡くしてしまった日だった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

62人が本棚に入れています
本棚に追加