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耳障りな音を立てる古い階段を踏み締めるように上がってようやく家に辿り着けば、向井はドアを開けるなり影山の背を突き飛ばすようにして中に押し入れた。咄嗟に反応できず足元をふらつかせた影山はそのまま床に倒れ込む。ビニール袋に入っていた野菜やカレールウがばたばたと散らばった。
「服脱げ、全部や」
「はは、乱暴やなあむーちゃんは。そんなヤりた」
「早よ脱げ!」
怒声に驚いてびくりと肩を跳ねさせ、渋々と言った様子で真っ赤なTシャツと汚れの少ないジーンズを脱ぐ。いや、このシャツは元々真っ白だったはずだ。素肌に渇いたどす黒いそれは頭痛がしそうなほど気味が悪い。しかし何よりも気味が悪いのは影山の様子だった。真っ暗な瞳は一体何を見て、何を思っているんだろうか。向井はところどころに色の違いがある赤シャツをごみ箱に投げ入れ、まだ色の目立たなさそうなジーパンを掴むと洗面所にいき手洗いした。鼻に付く鉄の臭い、嗚呼吐き気がする吐き気がする吐き気がする。蛇口から止め処なく流れる透明な水が紅く変色していく。雌豚の経血に触れているような錯覚が起こる。触った部分からじわじわと腐っていくんじゃないかと思った。
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