真っ白な男

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      「むーちゃん」     するり、と背後から腰に腕が回される。向井は今にも吐きそうになるのを堪えながらも反応していない振りをした。前を向いているため影山の表情は窺えない、窺いたくもなかった。目の前にある鏡越しにすら今は彼を見るのは嫌だった。腰周りに感じる人の体温は悲しくなるほど温かい。     「怒っとるん?」     「…………」     「なあ、俺悪くないんやで。あいつらが先に手ぇ出してきてん、ちょっと肩ぶつかっただけで。すぐ謝ったんやで、俺は悪くない」     機嫌を取ろうとするような甘ったるい声で耳元で囁く。影山の声は低い、そして言いようのないセクシーな魅力を感じる。ちゅう、と耳たぶに吸い付かれて背筋が痺れた。さっきから腰に当たっている硬くて熱い何かはきっと気のせいじゃない。しかし、向井は知っていた。さっき裏路地で倒れていた4人の腕や足が変な方向に曲がっていたことを。暗さと血とで奴らの表情まではよく見えなかったし、ぴくりとも動かなかった。ただ奴らが無事であることを祈るばかりである。もしも、もしも死んでしまっていたとしたら―――影山を人殺しにしたくない、それだけが気掛かりで仕方なかった。     
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