真っ白な男

13/15
前へ
/44ページ
次へ
      影山は精神的にも身体的にも向井に依存しきっていた。それが愛なのかどうかは定かではないが、向井もそのことは胸が痛むほどひしひしと感じている。一体いつからこうなったのか、そんなことは覚えていないし重要ではない。ぎゅ、っと密着して後ろから抱き締められると何もかも許してしまいそうになる。何度もごめんと繰り返す影山の声は涙で震えていた。こんなに手を汚して他人を痛めつけても、向井のことだけはどうも特別らしかった。     「俺……、他の奴なんかどうでもええねん」     「…………」     「……向井に嫌われたら、困る……ほんまに反省しとるから、……許して、」     泣きそうなほどに優しくて繊細で、他人の痛みにとてつもなく鈍感なだけなのだ。彼は向井の前ではまるでロボットのように従順だった。向井のためならどんなことでもするんじゃないかと思うくらい、いつだって拒否することなく素直に頷いた。だからこそ向井は影山に感じる唯一の『欠陥』を恐れ、どの程度の距離を取れば良いのか分からずにいる。自分が突き放せば簡単に崩れてしまう彼を、そしてまたそんな彼に自分も依存していると薄々感づいてはいた。      
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

261人が本棚に入れています
本棚に追加