真っ白な男

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      「……あっつ……」     風にざわめく木々の隙間から、酷く眩しい光が容赦なく差し込んでくる。油断すると焼け焦げて灰になってしまいそうだ。向井は額から流れ落ちる銀色の粒を手の甲で拭いながら、彼の待つボロいアパートへと向かった。手に提げたビニール袋の中にはアイスクリームが1つとセブンスター2箱。己の影が地面に縫い付けられるのではないかと思うくらい暑い、暑い日だった。     アパートの階段を一段上る度にカンカンと耳障りな音がする。それは普段となんら変わらないのだが、この暑さですでに苛立っていた向井は盛大に舌打ちをした。明るい茶色の短髪は汗できらきらと光り、襟足は纏わり付くようにうなじに絡む。ネームプレートの入っていない錆び付いたドアの前に辿り着けば、ぐったりと肩を落として熱の籠もる溜め息を吐いた。ずらして穿いたカーキ色のズボンのポケットに手を突っ込み、まるで玩具のような小さな鍵を取り出して鍵穴に差し込む。しかし、最初から鍵はかかっていなかったようだ。向井は眉間に皺を寄せてドアを開き、履き潰したスニーカーを乱暴に脱ぎ捨てて部屋へ入った。      
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