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「おかえりー」
「ただいま。おい、鍵開いとったぞ。不用心やから閉めとけ言うたやろ」
パソコンやテレビやベッド、冷蔵庫にタンスなど生活に必要なもの以外はほとんど何もないその部屋。影山は向井が放り投げたビニール袋を受け取り、嬉しそうに中を覗き見た。大柄だが色白なその男は、向井の話をさして気にしない様子でバニラアイスを手にフタを開ける。
「うーわー、溶けとるやん。買うたら真っ直ぐ帰って来いや」
「阿呆か、こっからコンビニ行くんにどんだけ時間かかると思とんねん。買うて来ただけ感謝せえ」
影山はぶーぶー文句を言いながら、それでも暑くて仕方ないのか溶けかけたアイスにスプーンを突き立てる。白く甘く柔らかなそれは木製のそれをほとんど抵抗なく受け入れた。ぐにゃり、と歪んで形を崩したクリームは唇の間で頼りなく溶けていく。
「ぬるい」
「冷やしてから食えばええやん」
「……ははっ、なんやあれみたいやな」
「何?」
「ザーメン」
「……あほや」
何がおかしいのかげらげらと笑い、影山はベッドに寝転がった。溶けかけたアイスをぐちゃぐちゃと混ぜて、遊ぶように口へと運んでいく。
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