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向井は長年付き合ってきた今も、影山という男がよく分からない。くっきりとした二重の瞳に、女のように滑らかに膨らんだ唇。髪は黒くふわついたくせっ毛で、肌はそこらの女よりずっと白く綺麗だった。そのわりに身長は180cmと高く、がっしりとした体つきをしている。甘いものが大好きなくせに体を鍛えるのが趣味で、そして意外に涙脆かったりもする。いつもにこやかにしているが、時々見せるぼんやりと遠くを見つめる表情が何故かとても怖いと感じた。影山が怖いというわけではなく、急に消えていなくなってしまうような気がして酷く怖くなるのだ。小学校から知っているのに、向井は時々『影山は本当はいないのでは』と錯覚することがある。黒縁の眼鏡のレンズ越しに見える瞳は、どこか物寂しそうな雰囲気もあった。何故そう見えるのかは向井本人にも分からないが、最近確かに感じるのだ。
「むーちゃん、味見せえへん?」
「……その呼び方止めろや」
「ええやん別に。バニラ好きやろ?」
だからこうして男同士で唇を重ねることの意味も分からないし、扇風機しか置かれていないむさ苦しい部屋で性行為に及ぶ意味も分からない。まだ吸い始めたばかりの煙草を半ば無理矢理奪い取られ、引き込まれるようにベッドへなだれ込む。
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