真っ白な男

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      胸騒ぎに駆られて発信ボタンを押した。が、繋がらない―――『ただ今、電話に出ることが出来ません。発信音の後にメッセージをどうぞ』―――何度かけても留守番電話に切り替わる。嫌な予感が後から後から沸いてくる。首にかけていたタオルを床に投げ捨て、急いで服を着ると電気も消さずに部屋を飛び出した。濡れたままの髪からぽたぽたと雫が落ちるが、そんなことを気にしている余裕はないほど全力で走った。     「アキ!アキ、どこや!」     夏とは言えど時刻は8時過ぎ、辺りはすっかり暗くなっている。この街の治安はあまり良くない、いかにも柄の悪そうな連中がそこらじゅうをうろついている。柄が悪そう、と言えば向井の外見も大概であるが彼が心配しているのはそこではなかった。あいつ、あいつまたやってんちゃうやろな。面倒くさいと思いながらも放っておくことは出来なかった。ぜえぜえと肩で息をし、思い付く限りの場所を巡って影山を探す。     「アキ!おったら返事せえ!」     そんな時、少し離れた場所で人の呻き声が聞こえた。ああ、やっぱり。考えれば考えるだけ無駄というものだった。あの大型犬は本当に扱いづらい、そう思いながら声の聞こえた方向へ駆け出す。      
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