261人が本棚に入れています
本棚に追加
「アキ!ぼけぇ、何しとんねんお前……!」
曲がり角の先の細く狭い道に、鉄臭い紅に塗れた影山が立っていた。表情はぼんやりと、どこか遠い明後日の方向を見ている。眼鏡にまで飛んだ赤黒いそれを、冷静に白いシャツで拭っていた。もちろんその汚い色は、影山のものではない。コンクリートの地面に倒れている知らない誰かの、誰か達のもの。特に何でもないというようにそこに突っ立ったままの影山は、昨日ベットの中で猫みたく喘いでいた彼とはまるで別人に見えた。
「……逃げるぞ、話は後で聞く。誰か来る前に早う……!」
向井は影山の手を取り、足早にその現場から立ち去った。影山は特に何も話さないまま子供のように黙って後をついていく。握った手すら固まりかけた他人の血でべたついていて吐き気がするほど不快だった。いくら暗くても街灯に照らされれば、血だらけになっていることくらい誰の目にも明らかである。人がいない道を選んで、今すぐ怒鳴りつけたい衝動を何とか抑え一言も話さないまま帰路を急いだ。こんな状況でも影山は、空いた片手にしっかりとカレーの材料が入ったビニール袋を持っていた。
最初のコメントを投稿しよう!