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一人暮らしの妙齢の女性が一番恐怖に思うのは、幽霊でも妖怪でも天変地異でもなく、自分ではない誰かの些細な気配である。
それは人間が必ず放つ存在感ゆえの産物であり、その気配を読むに読めない状態が一番背筋を凍らせる。
幽霊なら幽霊と言われたほうがほっとする。
都市伝説にもなりそうな怪奇現象に、女主人はベッドの近くに配備している木刀をとりにそろそろと動いた。
何かいる。
何かがいるんだ、でもいつから?ホントやめてくれ。
心中の焦りは驚愕の事実を目の当たりにする。
木刀がない!
彼女は限界まで目を見開くと、身体が鳴らす警鐘に目眩をおこして座り込んだ。
妙に冷静な頭がぐるぐると同じ言葉をまわす。
終わった……何もかもが終わった。
きっと家のどこかに隠れた痴漢男が逃げようとした私に木刀をかざして現われて、私は手ごめにされてしまうんだろう。
待てよ、台所の包丁……台所に逃げ込めば。
彼女は落胆していた頭をがばりとあげた。
その瞬間、ベッドの下の隙間から覗く怯えた双眸と、カツリと音をたてて視線がぶつかった。
それはあまりに奇遇な、世にも奇妙な出会いであった。
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