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「誰?」 目が覚めて、ふいに一言呟く。 窓からの陽射しが目の奥を刺激して、夢の中の景色と重なった。 何だか不思議な夢。 でも今日はそんなことに構っていられない。 「さむっ!!」 ベッドから出ると、まだ少し寒さが肌を刺す。 午前6時55分ー。 仕掛けた目覚ましが鳴る5分前。 前日に用意しておいた鞄や時計がきちんとテーブルに並べてあって、何だか少し笑えた。 キッチンでお湯を沸かしている間に顔を洗い、鏡越しに自分の目を見た。 「よしっ!」 気合いを入れるように声を出し、両頬をバシッと挟むように軽く叩いた。 沸かしたお湯でコーヒーを煎れる。 今日はブラックにしてみよう。 「にがっ!!」 自分で煎れたコーヒーだけど、やっぱりブラックは苦手。 まだ大人にはなれないみたい。 化粧をして、スーツに袖を通した。 まだ着こなせていない自分の姿がおかしくて笑った。 携帯の音がテレビを付けていない静かな部屋に鳴り響く。 「もしもし?」 「あ、ソラ?ちゃんと起きた?」 「うん。遅刻でもすると思った?大丈夫!社会人は初日でも、一人暮らしは3年目だよ。」 「そうだけど…。親としては? 娘の社会人初日は心配でしょ?」 「だーいじょうぶ!もう出るから!切るね!」 「そ?じゃあ頑張ってね。」 「はーい。ありがと。じゃね。」 電話を切り、携帯を鞄の中にしまった。 最後にもう一度両頬を叩き玄関を出た。 履き慣れないパンプスに違和感を感じながら、F駅までの道程を歩いた。
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