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主がいない日中、私はただただ暇であった。ペットショップにいた頃は、暇さえあれば隣接するケージにいる先輩が、何処で身に付けたのかわからないその豊富な知識を私に伝授してくださった。そんな尊敬すべき先輩と離れ離れになった今、私には一体どうやって暇を潰したらよいのかわからなかった。
新生活が二週目に突入し、いよいよホームシックにかかってきてしまった。仲間のいるショップが恋しく、しょっちゅう夢に見るまで悪化した。加えて私は、自分自身を更に追い込む事実に気づいてしまう。
一人きりでは、ダンディーになりようがないのだ。
スキンシップを取る相手が主しかいないこの状況で、一体どうダンディーになれというのか。意思の疎通のできる相手のいないこの現状では、ダンディーになったところでそのダンディズムを惜しげもなく披露できる場がないではないか。先輩の教え通り、可愛く生きるしかないではないか。
私はその日、四本の足がパンパンになるまで回し車を回し続けた。
◇
夢を失い屍のように項垂れていたいた私に希望を与えてくれたのは、一匹の蝿であった。正確に伝えると、蝿が素晴らしい教えを説いてくれた訳ではない。室内を縦横無尽に飛び回る姿を見て、私が自分で希望を見出したのだ。
五月の下旬頃からしばしば見かけるようになった彼らの飛行ショーの見物は、日中は暇人ならぬ暇鼠である私にとって一つの娯楽と化していた。木屑のカーペットに仰向けに寝そべると、牢屋のようなケージの柵越しに見える天井で見事なアクロバット飛行が展開される。実に見事であった。そして、ショーの見物が日課となりつつあったある日、私は遂に希望の光を探り当てたのだ。
もし我が身体を蝿に変ずることができれば、この牢屋の如きケージから抜け出し、自由になれるのではないかと。
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