二、鼠捕らずが駆け歩く

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「すいません。そこのダンディーな殿方」  これは私のことに違いないと、自転車を止め振り返った。そこには可憐な若い女性が立っており、私に微笑みかけていた。 「何でしょうかお嬢さん」 「実は特別にお話したいことがありまして。立ち話もなんですので、どうぞ中へ」  そうして私は、洋風の喫茶店へと促された。盗難防止のため、自転車にはきちんとチェーンをかけた。  ◇  民宿に帰るなり、私はそれをカゴから取り出し玄関の戸を開けた。バタバタと廊下を駆け、善さんが寝ている部屋に飛び込む。そこにはやはり、女将さんもいた。 「静かにしな公之介。しかし早かったね。配達はいつ頃になるんだい?」 「それどころではありません! これをご覧ください!」  私は抱えていた風呂敷包みを解き、中から真っ黄色の壺を取り出し畳の上に置いた。 「何だいそりゃ?」 「ふふふ。これは金運、仕事運、恋愛運、その他諸々の幸運を呼び寄せる奇跡の壺です! 通常は一千万円のところを、見知らぬ女性のご好意で特別に二十万円で譲っていただきましブエッ!」  頬をグーで殴られた。痛い。 「なっ、何をなさるのです!」 「このど腐れ鼠が! こてこての悪徳商法に引っかかりやがって! こんな壺で幸運が手に入りゃあ、誰も苦労しないんだよ!」  激怒した女将さんが蹴り飛ばした壺を、私は慌ててキャッチした。この壺が偽者? そんな馬鹿な。あのような可憐な女性が、そんな詐欺のような真似を働く訳がない。 「では実験しましょう。この壺を一週間置き、何の幸運も訪れなかったときは、偽者であることを認めましょう。ですが、もし幸運が訪れたときは、女将さんに謝っていただきます」 「裏に五百円の値札シールが付いてるじゃないのさ」 「……私が愚かでした」 「見つけ出して返品してきな!」  私は壺を抱えたまま、炎天下の下へと蹴り出された。
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