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「黒一君とキミは、確かに相性が悪いかもしれないなぁ」
「そんな不安になるようなことを言わないでください」
「でも、いい奴だよ彼は。なーに、捕って食われやしないさ。多分」
「多分ですか!」
これ以上話していてもブルーになるだけと悟り、私は頭を下げ足早に部屋を出た。出たところで、まだ共同の自室へ行く心の準備ができていない。なので、私は夏風邪をこじらせた善さんのお見舞いに向かうことにした。
「失礼します」
足を踏み入れたのは、私が初めてこの民宿へやって来た時に気絶から目覚めた部屋。仏壇では今日も旦那さんが柔らかく微笑んでいる。
ここは女将さんと善さん、二人の部屋である。つまり善さんは女将さんと同じ部屋で眠っている訳だが、そのことを言うと彼は何故だかプンスカと怒るので、私はなるべく言わないようにしている。
善さんの様子は、とても苦しそうであった。
額には冷えピタ、後頭部には氷枕。なのに身体は毛布で包まれている。頭は南極、身体は砂漠状態である。
「助けてよおっさん。死にそうなくらい熱い」
「それはそうでしょう。こんな猛暑の日に毛布だなんて」
「汗かかなきゃ熱は下がらないって、母ちゃんが無理矢理被せたんだ。でも、これじゃあサウナ地獄だよ」
その訴えがあまりにも切なげであったので、たまらず私は善さんの毛布を剥ぎ取ってあげた。だがすぐに「寒気がする」と訴えられ、善さんは再び毛布に包まれた。
私は布団の隣に胡坐をかき、善さんが食べ残していたお粥を頬張った。
「風邪が移るよ?」
「私はそのような軟弱者ではありません。ダンディーですから」
「おっさんも風邪引いちゃえ」
どうやら私の言動が気に触ったらしく、善さんは毛布に顔を埋めた。そこからは何を話しかけてもだんまりを決め込まれてしまい、やることもない私は近くに落ちていたアサガオの絵の描かれた団扇を手に取り、己を扇いだ。気休め程度に涼しくなる。アフロ頭が蒸し暑い。
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