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「誰だお前?」
「こ、これは失礼しました。私は星崎公之介と申します。アナタが留守中の間、この部屋を使わせていただいておりました」
「客の部屋を使わせるたぁどういう神経してんだあの女。まぁいい。見ての通り俺は帰宅した。だから出てけ」
「しかし、女将さんには共同で使うよう言われておりまして」
「あぁん?」
ああ、怖いこの人。
「何が悲しくて俺が鼠と同じ部屋で暮らさなきゃなんねぇんだよ」
「私に言われましても……え?」
この方、今鼠と言わなかっただろうか? 思い返してみれば「鼠臭い」と悪態をついていたし、もしや気づいているのだろうか。私が優秀で頭脳明晰な化けハムスターであることに。
「あ、あの」
「黒一、公之介」
真意を確かめようと試みたところで、女将さんが我らの部屋に現れた。腕を組んだ格好で、顎をしゃくる。
「表へ出な」
◇
民宿の前に停められているオンボロの軽トラック。所々錆付いた荷台には、鉄パイプのような物や大きな布や、何やら色々と乗せられていた。私達を表に出したのは、これらを降ろすためだそうだ。喧嘩売られたのかと思いヒヤヒヤした。
女将さんの忠実なる下僕である私は早々と作業を開始したが、黒一さんはムスッとしており動こうとしない。だが、ジーンズに包まれたお尻をミドルキックで蹴り飛ばされ、ようやく作業に手を出した。
積荷を降ろす作業自体はさして大変というほどでもなかったのだが、何せとにかく暑いので短時間の間で私と黒一さんは汗だくになっていた。その間、女将さんは軽トラックに乗った大柄の男性と談笑している。あの方はお花見でお会いした記憶がある。確か、棟梁のタカさんと呼ばれている人だ。
「悪いねタカさん。ただで借りる上に運んで貰っちゃって」
「なーに。他ならん鏡花ちゃんの頼みだからなぁ」
ガハガハと笑いながら、タカさんは太い腕に止まっていた蚊をピシャリとやっつけた。荷物運びで両腕の塞がる私は、先ほどから刺され放題である。鼠の血は美味いか畜生め。
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