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香りのするほうを見てみると、背の高い誠実そうな男の人が立っていた。
(うわっ!ああいう人の為にイケメンて言葉があるんだろうな…)
とかどうでもいいことを考えていたら、その男の人は紫乃の後ろにいたおじさんに声をかけた。
「まだ何もしていないようだから、消さないでおいてあげるよ。早くいかないと手遅れだ。」
それはおそらくおじさんと紫乃にしか聞こえていなかったであろう。それだけ小さな声で囁いたのだ。
一瞬電車が揺れ体勢を崩した紫乃は、近くの手すりにつかまり、立て直した。
そしてもう一度男の人とおじさんを見てみると。
(あれ…?おじさんどこいったんだろう?)
おじさんだけいなくなっていた。わずか数秒目を離していただけだったのに、いなくなっていた。
不思議そうな顔をしていたのか、男の人は困ったような笑顔をみせて紫乃に話しかけた。
「あのおじさんね。もう他の車両いったから大丈夫だよ。」
すると電車のドアが開き、男の人は降りる駅だったようで、慌てて降りようとしていたが、紫乃とすれ違いざま、ポンと紫乃の頭を軽くたたき、じゃあねと言って、降りていった。
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