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ここは砂漠。
誰もが渇き餓える、荒涼とした死の世界。
人間はここには入ってくることができない。
だからボクはここにいる。
なぜならボクは、人間にこの姿を見られてはならないからだ。
かつて、ボクは町に住んでいた。
そこで人間に石や食べ物を投げつけられた。
罵声や嘲笑や嫌悪の視線を浴びせられた。
目が合うと、悲鳴をあげて逃げていった。
ボクは醜いのだ。
枝のように、細く折れ曲がった身体。
その体からは、鋭い爪が突き出た、ごつごつした岩 のような手が生えている。
足は身体より更に細く、また何本もあり、地に張り巡らされ蔓延っている。
顔は毒々しい6枚の真赤な花弁に囲われており、その中心には血走った大きな目玉がひとつ、ついている。
この姿は植物に少しだけ似ている。
でも、ボクは植物とは違う生き物だ。
人間にも少しだけ似ている。
でも人間とも違う生き物だ。
ボクは何にも類似していない。全くもって普通ではない。
人間たちはボクを見て口々に叫ぶ。
怪物だ!!
ボクは怪物なのだ。
それを知ったボクは足を地面から引き抜き、悲しみにゆらゆらと揺れながら飛び、人間のいないこの死の砂漠にやってきた。
長く彷徨った末に、四方を岩に囲まれた秘境を見つけた。
ボクはその秘境で暮らすことにした。
幸か不幸か、ボクは食べ物を食べなくても地面に埋もれた足から養分を摂取できたので生きていることができた。
そもそもボクには口が付いていなかったので、足からしか栄養を摂ることができなかった。
死の砂漠はボクを燃えるような暑さで優しく包んだ。
太陽は強く鋭い光でボクを揺り起こし、月はぼんやりとした光でボクを安らかな眠りに誘った。
砂漠にやってきてから、ボクは穏やかに日々を過ごしていた。
毎日毎日が静かに過ぎていった。
聞こえるのは轟々と熱砂を巻き上げる風と、遥か遠くのオアシスの村からかすかに聞こえてくる笛の音だけだった。
ボクは孤独だった。
ボクは人間が嫌いではない。
しかし人間は、ボクのことが嫌いだ。
だから仕方ない。
ボクはこの死の砂漠で死んでいくことにした。
風で巻き上がる砂に閉ざされた地で、もう誰にも出会うことなく・・・
もう誰にも知られることもなく・・・
ボクは太陽を見上げた。
まぶしくて、目を細めると、太陽は悲しげに微笑んだように見えた。
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