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やがて夏がやってきた。
夏は、この死の砂漠で最も過酷な時期である。
ボクの身体は気温がどんなに高くてもなんともなかったが、地面から段々と栄養が失われていったため、ボクは足から養分を摂取することができなくなってしまった。
ボクは渇いていった。
死が訪れたことを悟った。
ボクは静かに目を閉じ、胸の前で指を組んだ。
開いていた真赤な花弁で顔を覆い、太陽の光を遮断した。
やがてボクは、深い眠りに落ちていった。
一体、どれほどの時間がたったのだろう。
ボクは顔に冷たさを感じて目を覚まし、花弁を開いた。
目の前には、驚いて目を見開いている小さな少女が立っていた。
ボクはとても驚いた。
それと同時に、激しい渇きを感じた。
顔と地面が濡れていた。ボクはすぐに足から水を吸い上げた。
どうやら少女はボクに水をかけてくれたらしい。手には水が入った革の袋を持っていた。
少女は日に焼けた浅黒い肌をしていた。髪はまるで燃えるような赤毛だった。大きなふたつの黒い瞳でボクを見つめていた。
ボクは恐る恐る少女に声をかけてみた。どこからともなく声が出た。ボクは自分が話せることを知った。
少女はボクが喋ると微笑みながら、こんにちは、と言った。
しかし少女は一体どうやって死の砂漠を渡り、この秘境まで辿りついたのだろうか。
少女に尋ねると、砂漠で迷子になり彷徨っているうちにこの秘境まで辿りついたのだそうだ。
少女はボクの醜い姿を見ても臆することなく、ボクに近づき岩のような手に触れた。一緒に遊びましょう、と言って、ボクの手を揺すった。
ボクは突然のことにすっかり困ってしまい黙っていると、少女の大きな瞳にみるみる水が溢れてきた。ボクは驚いて、少女にどうしたのかと聞いた。
少女は、あなたが一緒に遊んでくれないから悲しくて涙が出てしまったの、と言った。
一緒に遊べば治るのかと尋ねると、少女は頷いた。
ボクは少女の小さな手を取り、じゃあ遊んであげる、と言った。少女の目からすぐに涙は消え、嬉しそうに笑った。
ボクと少女は日が暮れるまで遊んだ。
少女と遊んでいるうちに、ボクの渇きは癒えていた。
少女はその小さな唇で小さな横笛を吹いた。
砂嵐の合間に時折聞こえてきた笛の音は、少女が吹いていた笛の音だったような気がした。
生まれて初めて楽しい気持ちになった。
ボクはいつの間にか、少女の事を好きになっていた。
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