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やがて日が暮れ、夜が訪れようとしていた。
少女は、家にどうやって帰ればいいか分からない、と言ってまた目から涙を流した。
ボクは少女の小さな身体を岩のような大きな手に乗せて、足を地面から引き抜いて空に舞い上がった。少女は驚いてボクの首に手を回した。
胸の奥の方か、鳩尾のあたりになにか苦しいものを感じながら、ボクは夕焼けの中を飛んだ。
少女が遠くを指差して、あそこが私の家がある村よ、と言った。オアシスの近くに小さな集落が見えた。
ボクは少女の住む村の近くまで少女を運んだ。少女をそっと地面に降ろすと、少女は悲しそうな顔をした。
また行ってもいい、と少女はボクに尋ねた。
ボクは、ダメだと言った。
ボクと少女は違う生き物なのだ。少女は人間、ボクは怪物だ。
ボクたちは二度と会うべきではないと、ボクの本能が告げていた。
それでも少女は、絶対にまた行くから、と言い張った。少女はまた涙を流していた。
ボクは黙って少女の背中を押した。少女は渋々村に向かって歩き出した。ボクは少女がこちらを振り返る前にその場から立ち去った。
ボクの胸には悲しみが溢れていた。しかし少女のように、この目から涙が流れることはなかった。
やはりボクは怪物であり、少女とは違う生き物なのだと改めて感じた。
あの少女と別れてから幾年かが経った。
少女はこの秘境に再び尋ねては来なかった。
ボクも少女を尋ねることはしなかった。
しかしボクは、毎日毎日少女の住んでいる村の方をつい眺めてしまっていた。
長い時が流れた今、少女はきっと美しく成長していることだろう。
年月が流れれば流れるほど、ボクの心の中の少女の面影は濃くなって、愛しい思いはどんどん溢れていった。
ボクは長い長い年月を、少女のことだけを想いながら生きていた。
太陽はそんなボクを鋭く刺すように強く照らした。
ある日の夜、いつものように少女が住む村を見ると、ゆらゆらと蛇のように踊る炎が、砂漠の黒い夜を真赤に染めていた。
ボクは地面から飛び出した。少女の住む村が火事になっていたのだ。
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