11人が本棚に入れています
本棚に追加
あの少女と別れてから幾百年かが経った。
少女はこの秘境に再び尋ねては来なかった。
ボクも少女を尋ねることはしなかった。
しかしボクは毎日毎日、かつて少女が住んでいた村があった方をつい眺めてしまっていた。
長い時が流れた今、少女はもう老いて死んでしまっていることだろう。
年月が流れれば流れるほど、ボクの心の中の少女の面影は濃くなって、愛しい思いはどんどん溢れていった。
ボクは長い長い年月を、少女のことだけを想いながら生きていた。
再び少女に会うことはかなわなかったが、ボクは幸せだった。
少女がボクを尋ねてきてくれたあの日は、ボクのこの一生の中で一番輝いた時だった。
少女と一緒に遊んだ時間は、最も大切で愛おしい思い出になった。
ボクは、少女を愛している。
これから先もきっと、変わらずに愛し続けるだろう。
このボクにとって、少女は全てなのだ。
太陽と月がこの空から消えてから、ずいぶん時が経った。
この砂漠どころか、この世界にもう生物は生きてはいないだろう。
・・・怪物以外は。
しかし、ボクの真赤だった花びらは枯れて汚らしい茶色に変わり、細い身体はますます細くなり枯れ枝のように渇いている。
岩のようだった両手はすっかりもろくなり、泥の塊のようになっている。
足は地中で崩れていつの間にか砂になっていた。
そして今、怪物のボクにも、やっと死が訪れたようだ。
とても疲れていて、眠いような気がした。
緩やかに優しく、死が、ボクを包んでゆく。
ボクはゆっくりと目を閉じた。もう花弁で顔を覆う力は残っていなかった。
胸の前で指を組もうとしたら、ボロボロに崩れて風に攫われてしまった。指を組むのはあきらめた。
真っ暗なまぶたの裏の闇を見ながら、ボクは心の中で全てのものに別れを告げた。
サヨウナラ。
ボクが生きたセカイ。
サヨウナラ・・・
最期の時、闇の中で瞬く愛しい少女の笑顔を見た。
ボクは胸に溢れる愛しさと苦しさとを味わいながら、二度と覚めることのない、深い深い眠りについた。
最初のコメントを投稿しよう!