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「いいえ。まだ…」
「ふむ…屋敷にあったのは、平俊盛の骸だけだと聞いている。奴には息子がいたはずだが…」
源氏の武者達は、自分を探している。
俊孝は自分の心臓が高鳴ったのを感じた。
向こうから郎党の一人であろう男が走って来る。
「つ、角井直家殿が、討たれましてございます!」
「何!?直家が!?」
ああ、さっき斬った大鎧の男か。
「なんと…直家が…」
「奴が直家を殺したのだとすればまだそう遠くへは行っておらぬはず。探せ!平俊孝と名刀『夕焼』を!」
源氏の奴等は、自分だけでなく、夕焼まで狙っているようだ。
…冗談じゃない。
あんな源氏の田舎武者の東夷(あずまえびす)共に、この夕焼は渡せない。
俊孝はその場から離れ、森の中へ入って行った。
「…ふぅ」
近くの木の幹に寄り掛かり、俊孝は息をついた。
これからどうしたものか…。
捕まる気は毛頭ない。敵に首を斬られるのは御免だ。
ならば…。
「…戻らないと」
西国に行こう。
戦の後、平家の多くは船で西国へ逃れた。平家は西国に領地を多く持つので、味方になる者もまだいると踏んでいるのだろう。
俊孝と父は、あの時は船に乗るより自分達の屋敷に戻る方のが手っ取り早かったため、そうしなかったのだ。
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