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義経はそれを見て、笑いながら言った。
羞恥で更に頬を赤く染めつつも、俊孝も言う。
「わ、笑うな!」
「はいはい」
義経が俊孝の頭を撫でようと、触れる。
それに気付いて、俊孝はその手を払い除けた。
「気安く触れるな!」
「あ…悪かった」
と、義経の屋敷の方から、笛の音(ね)が聞こえてきた。
それに合わせて、女の歌声も聞こえてきた。安らかでいて綺麗な、美しい歌声だ。
優しげな笛の音と、歌声が合わさり、優美な音楽が完成する。
「これは…」
「きっと、静が歌って光風が笛を吹いているのだろう」
「しずか?」
「某の妾(めかけ)の白拍子でな。舞と歌で彼女の右に出る者はおらぬだろうよ」
「ふぅん…」
成る程、義経がそう言うのも頷ける気がする。
此処まで美しい歌声を持つ白拍子は、都、いやこの国を探しても中々いないだろう。
それ程までに素晴らしい。
「…良い歌声だな」
「惚れるなよ?」
「なっ、誰がっ!?」
俊孝のその反応を見て、義経はまた笑う。
…完全に遊ばれている気がしてならない。
顔を赤く染めながら、俊孝は恨めしげに義経を見るのだった。
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