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「その後も縁談はあったらしいが戦とかもあって、結局流れて今に至るという訳だ」
「…わたし、悪いこと聞いちゃったわね。ごめんなさい」
申し訳なさそうに言う光風に、何故謝られたのかわからないとばかりに俊孝が口を開く。
「気に病むな。俺が勝手に話しただけだ。お前が謝る必要なんてない」
「…ありがと」
月明かりに庭の卯の花が照らされている。
…見に来てみろと言ったのは、これのことか。
成る程、中々に綺麗だ。
「…そういえば、延寿の家族の話って聞かないわね。…もし良ければ、聞いてみたいのだけれど…」
光風がちらりと俊孝の様子を伺うように見る。
…自分が平家の人間であることがばれないように注意を払えば、大丈夫か。
「構わない。少しだけなら」
そう俊孝が言うと、光風は嬉しそうに口角を吊り上げた。
「いいの!?」
「少しだけな。でも、面白味なんてないぞ?」
「でも、わたしね、貴方のことを――延寿のことをもっと知りたいの。だって…あ、何でもない」
「何だよ。気になるな」
「き、気にしないで!ほんと、どうでもいいことだから!」
言いかけた言葉を飲み込み、慌てたように隠す光風。
「…そ。なら、気にしない」
「あ、ありがと…」
光風の心臓は未だにばくばくと動悸している。
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