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気にしないでくれて良かった…。
…そもそも、自分はあの後どう言葉を続けていくつもりだったのだろうか?
「…光風?」
黙り込んでしまった光風の顔を、俊孝が覗き込む。
驚いて我に返る光風。
「え!?あ…ごめんなさいね。話、してくれる…?」
「ああ。面白くなんかないぞ?」
笑いながら言い、一度息を吸うと俊孝は懐かしげに口を開いた。
「俺の父は、一族の中でも武勇で有名な人だったよ。誰よりも兵(つわもの)らしく、常日頃からあろうとしていた。俺も、そんな父に幼い頃から武芸を学んだんだ。そんな父が俺にとっても誇りだったし、憧れだった」
「延寿の家って、兵なの?」
「一応、な」
「そうなんだ…」
「母は…元々は親類の家の使用人だったそうだ。色恋に全く興味のなかった父上が、一目惚れして正室にしたんだと。…俺が幼い頃に亡くなったから、もう顔も覚えていないがな」
「素敵な出会い方ね」
「そうかもな。あとは…俺の上に姉が一人、下に妹が一人いる」
「あら、じゃあ延寿は真ん中なのね」
「そうなるな」
そう言ってから、俊孝は気付く。
二人は、今頃どうしているだろう…?
二人共、一ノ谷での戦の時は平家の船に乗っていたから、一族の者達と共に西国に行ったのは確かだろう。
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