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辰沙は捕まった話は聞いていないと言っていたから、一族の者達と今もいるのだろう。 「……」 俯いて陰りのある顔になってしまった俊孝に光風が声を掛けた。 「延寿?」 「…!あ…悪い。…そろそろ寝ないか?もう遅くなってきたし」 「え?あ、そうね。ごめんなさいね、話に付き合わせちゃって」 「いや。お前と話すの、俺は嫌いじゃない」 寧ろ好きだ。 「…ありがと。あ」 光風が庭の方を指差す。 俊孝もそちらを見る。 「見て、鳳(あげは)蝶」 光風が指差す先には、一匹の鳳蝶がひらひらと飛んでいた。 月の光に照らされ、それは妖しく輝きながら飛んでいるように見えた。 「夜なのに蝶とは…酔狂なのもいたものだ」 「そうね。…綺麗ね」 「まあな。…少々不気味なものがあるがな」 鳳蝶が飛び去って行ってしまったのを見届けると、俊孝は立ち上がった。 「さて。…部屋まで送ってやろうか?」 「え、いいの?」 「ああ。人の好意は素直に受け取る方が得だ。何処ぞのお前の従兄(いとこ)もそんな事を言っていたぞ」 「もしかして、義経兄様が?…そう。じゃあお願いしようかしら」 二人は顔を見合わせて笑うと、月光が照らす簀子の上をゆっくりと歩き出した。
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