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徒歩で行くより馬を使った方が断然早い。
それを考えての行動だった。
慎重に近付いて行き、木に繋がれている手綱を掴む。
馬が荒く鼻息をついた。
「あ…静かにしててくれ」
俊孝は小声で馬に声をかけた。
慎重に行動していることもあり、つい音には敏感になってしまう。
手綱を木から外し、馬に跨がる。
「…頼む」
馬は大きくいなないた。
いななきが辺りに響く。
「げ、おまっ…!」
「貴様!そこで何をしている!?」
しまった。
見付かった。
俊孝は急いで馬を走らせる。
「おい、止まれ!!」
誰が止まるか。
頬の近くを鋭い風が掠める。
見れば矢が地面に刺さった。
あいつ、射てきやがった…!
「曲者め、待たんか!」
「おい、どうし…」
騒ぎに気付いた者が来たようだ。
矢が次々とこちらに射られる。
早くこの場は離れた方がいい。
馬を急かし、走る速さを上げさせた。
その時。
背中側の、右肩の下と左腰の上に衝撃を受けた。
「がっ…!?」
矢が突き刺さったのだ、と気付くのに時間はかからなかった。血が肌を伝う感触を感じた。
でも、この程度で音を上げている暇など、今はない。
痛みを堪え、速度を上げさせる。
俊孝の姿は夜闇に消えて行った。
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