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それは、氏神である厳島の社(やしろ)の神前で行われた。
服は直垂――それも真新しいかなり上質の物を着せられた。
化粧も本来ならすると聞いたが、兵であって公家ではないからという父の言葉で、辞退した。
父を始めとする一族の者らが見守る、厳(おごそ)かな雰囲気の中、慣れ親しんだ稚児髪が解かれ、髻(もとどり)を結われる。
烏帽子親を引き受けた、一族のある者が、彼の頭に烏帽子をゆっくりと載せる。
烏帽子が自分の頭に触れ、載せられた時、延寿は自分の身が引き締まる思いがした。
同時に、この自分が遂に元服するのだという実感が、ようやく湧いた。
「貴公の名は、今日から『俊孝』としよう。御父上の俊盛殿からの一文字と、『親や一族を大切にする』という意味の『孝』で、『俊孝』」
――平俊孝。
彼は胸の内で噛み締めるように呟いてみる。
それが、今日からの自分の名前。
晴れての元服。これで、自分は一人前の男子の一人となる。
「俊孝殿。その名にある通り、我等が平家の一族の為に自身の最善を尽くすよう」
「――はっ」
俊孝は頭を下げながら、返事をした。
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