82人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言うと、俊孝はそそくさと駆け出した。
「ちゃんと此処に来なさいよー」
「ああ」
光風の言葉を背で受け止め、俊孝は速度を上げた。
◆◇◆
「ふー…」
呼吸を整え、辺りを見回す。
確か、この辺りで、昨日は市をやっていたような…。
今日は市はなく、そこは人々が行き交う普通の道となっている。
辰沙は昨日、自分は大抵この辺りにいると言っていた。
だから、今日もいるだろうと考えたのだ。
「……」
が、見回す限り、彼らしき人物は見付からない。
――もしかして、昨日のは、夢だったのではないか?
そんな考えがふと浮かび、急いで頭から追い出す。
あれは、夢なんかじゃない。
そう自分に言い聞かせながら、捜索を続ける。
と、俊孝がいる場所から何丈か離れた所の道端で、ぼんやりと腕組みをして突っ立っている青年を見付けた。
俊孝は近付いて、彼の特徴を把握する。
長い前髪が彼の右目を隠し、太刀を腰に下げている青年。
――間違いない。
「…辰沙!」
俊孝の声に気付き、辰沙はこちらを向くと、嬉しそうな表情になった。
辰沙の笑顔に釣られ、俊孝も自然と頬が緩んだ。
最初のコメントを投稿しよう!