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◆◇◆
都を出て、少し歩いた所に生えていた大樹の根本に、俊孝と辰沙は並んで腰を下ろした。
幸い、人の往来も見る限りない。
「此処でいいですよね」
「ああ。風が気持ち良いな」
初夏のやや強い日差しは木の枝が遮ってくれており、涼しい風が大樹の下を通って行く。
中々に良い場所かもしれない。
俊孝は、ふと疑問に思ったことを口にした。
「辰沙は、今何してるんだ?考えてみれば、昨日は聞きそびれた」
「あ、言ってませんでしたっけ?俺は今、とある商人の家に世話になってるんです。商いをする場所には、色んな情報が集まりますからね。…まあ、若のは大して集まりませんでしたが」
「そうか。それは…集まらなくて良かったと思うが」
「え?」
「簡単に集まってたら、俺は今頃捕らえられているさ。有力な情報だと、聞いた誰かが源氏の者に知らせる可能性がある」
「あ…言われてみれば。うわー、俺、莫迦だ」
「あははっ。ところで、今日はこんな所にいていいのか?」
「その辺はご心配なく。今日は暇を貰っています」
「そうだったか」
「若の方もそうなんですか?」
「え?……まあ、そんなとこだ」
目を泳がせながら、俊孝は返事をした。
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