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そうして幾らか談笑し、会話が途切れた時、俊孝は前を見据えたまま、口を開いた。
「…辰沙」
「なんでしょう、若」
「俺…やっぱり皆の所へ一度戻りたい」
辰沙は俊孝の横顔に視線を移す。
「まあ、皆に会いたいのと、…心配なんだ。それに、戦が始まった時、皆が戦ってるのに、俺だけこうやってのうのうとしているのも忍びない」
俊孝は自分の両足を引き寄せて抱え込んだ。
「とにかく…一度帰りたい。いや――帰らないと」
「…そうですか」
風が少し強くなり、木の枝を揺らし、葉音を立たせた。
葉音が止むのを待ってから、辰沙は口を開く。
「――やはり俺も、姫様達の御顔を見たいです。…幸い、今の所は源氏が兵を集めている気配はありません。つまり、平家追討は一応まだ先ということです」
「……」
「準備は、俺が整えておきます。…一緒に帰りましょう」
「…ああ!」
辰沙の言葉に、俊孝は嬉しそうに力強く頷いた。
「…ところで、思ったんですが」
「?」
「若、その短い髪で髻は結えるんですか?」
「あ」
言われて初めてそれに気付く。
確かに、こんなに短くては、髻を結えるかどうかも不安だ。
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