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「…何故、父上は某(それがし)に太刀など与えるのですか」
「――そなたは生きろ。かような所で命を絶つには、そなたはまだ早過ぎる」
「…!」
俊孝は目を見開く。
父は自分に生き恥を晒せと言うのか。
「何故です!?『兵(つわもの)らしくあれ』といつも父上はおっしゃっていたではないですか!?」
反論する俊孝を落ち着かせるように、父は彼の両肩に手を置いた。
「そなたは生きろ。敵(かたき)を討てとは言わぬ。幸せに生きろ。――これは、そなたの親としての願いだ」
「……っ」
父の眼差しに、俊孝は反論を続けられなくなった。
真剣さと哀しみが入り混じった、その眼差しに。
「―――わかりました」
震える声で搾り出すかのように、俊孝は言った。
目の前に置かれた太刀を掴む。
それを見て父は安らかな笑顔を見せた。
そうだ。それで良い。
「その太刀は、我が一族に伝わる物。名を夕焼(ゆうやけ)という。今を持ってそなたに与えよう」
「……はい」
「裏から行け。そちらはまだ火が回っておらぬはずだ。鎧は置いて行け。重くては何かと不便であろう」
「……はい」
俊孝は鎧を脱ぎ、直垂(ひたたれ)姿になった。
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