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◆◇◆
「っはあ…っはあっ…」
屋敷の裏にある森の木の幹に背を預け、俊孝は荒く呼吸をした。
呼吸をしながら周りを見る。
良かった。人はいなさそう…。
だが、鎧の音が近付いて来る。
隠れないと。
俊孝は近くの茂みに身を隠した。息を殺し、気配を絶つ。
「おい、誰かいたんじゃないのか」
野太い男の声。
がしゃがしゃと鎧の音をさせながら、俊孝の近くまで来た。
幸いこちらに気付いてはいない様子。
「気の所為(せい)か…」
別の足音が近付いて来る。
「どうかなさいましたか」
「いや、人がいる感じがあったのだが…。それよりどうした」
近付いて来た別の足音の主は、どうやら男の郎党のようだ。
「はい、屋敷に突入した者の話では、平俊盛(たいらのとしもり)の自害が確認されたとのこと」
父が、死んだだと…!?
…こうなることは薄々気付いていた。いや、わかっていた。
だから覚悟もしていた。
――つもりだった。
目の前が霞む。頬を雫が伝う。
…泣くな、自分。
泣いたことで気が緩んだのであろう。
「…やはりそこに誰かいるな!?」
感づかれた。
俊孝は跳びのいて茂みから出た。
さっきまで自分がいた場所に男の太刀が刺さった。
涙を手の甲で拭い、俊孝はそちらを見据える。
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