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落ちていた場所から見て、元は角井とか言った男が持っていた物だろう。
帯に差し入れておいたのが、さっきので其処から落ちた、といったところか。
「……」
俊孝はその短刀を拾い上げた。
そういえば自分の短刀は、父のところに置いて来てしまった。
丁度良い。これからの中で使わせてもらうとしよう。
それにこんな綺麗な短刀、目の前に倒れているような男には勿体ない。
鎧の音。
馬の蹄の音。
様々な音が近付いて来るのが聞こえた。
さっきの騒ぎを聞きつけたのだろう。
此処も直に人が来る。
本当なら、もう何人かこの手で斬り捨ててやりたいところだが、音の様子から考えれば、さすがに一人では分が悪い。
一度退いた方が賢明だ。
「…覚えてろ」
俊孝は、身を隠すために森の奥へと入って行った。
◆◇◆
「はあっ…」
音が聞こえない場所まで逃れた俊孝は、近くの木の幹に寄り掛かった。
自分はどのくらい進んだのか。
わからない。
木に寄り掛かったまま、へたりこむ。
呼吸を整える。
「はあっ、はあっ、はあっ…」
これからどうしよう。
逃げるにも、当てなどあるはずもない。
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