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『好き』の対義語は『嫌い』ではなく、『無関心』。今更、使い古されたフレーズだが、俺はまったくその通りだと思っている。きっと彼女も。
本当に嫌いな人間はこの世にいないものとする。頷ける、共感できる。この気持ちは他者と共有できる数少ないモノだ。俺にとって大切な感性だ。
だから俺は彼女を、雨宮 恵(あまみや けい)を嫌えない。同じ感性の彼女を捨て置くことはできない。彼女もそうだ。俺をなかったものにはできない。嫌えない。彼女の身中に、心中に俺は根付いているから。離れない、離れられない。僕から離れることはできない。
「それで、なにか用なの?」
ハッとする。冷や水のような冷たい声を浴びて俺は日常に戻った。
言葉は冷たくても、ちゃんと受け答えしてくれるので彼女は有情である。
「あ、恵ちゃん。せっかくだし一緒に帰らないかい?」
「お断りよ」
即答だった。
少しショックだった。
しかし、俺は瞬時に脳内でツンデレ発言だけ変換する。
『別に、一緒に帰りたくないわけじゃないんだからねっ!』
ヤバイ萌えた。ヤバ萌えだ。
しかし、昨今ツンデレは一種のネタとして扱われているよね。嘆かわしいことこの上ない。ブームは去り、今やネタ扱いだ。そんな現代における流行にもの申したいけれど面倒なので割愛する。
「ふん」
彼女は鼻をならして、その場を後にしようと踵を返す。これ以上は付き合ってくれないみたいだ。
まぁ、まずはこの程度でいいだろう。俺も相応に納得したので引き止めることはしなかった。
彼女の背中が遠退いていく。凛々しく、格好良い、小さな背中だった。俺は見えなくなるまでそれを眺め続けた。不意にその時、少しだけ心が痛んだ。
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