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声の低い歌手が歌うそれは、着信を知らせる音には向いていないといったのに、冴子は変えようとしなかった。 それが今は奇妙にこの場面にマッチしている。 そっと携帯を耳から離し、千絵は玄関のドアに頬をつけた。 中の様子を窺うと、そこからは確かにあの音楽がする。 そっとドアノブに手を掛け、それを回す。 すると、先ほど冴子がした時のように、ドアが開いた。 やはり、誰かはいる。 そしてまずいことになったかもしれない、と改めて思った。 「千絵……」 数センチドアを開いたところで、中から冴子のか細い声が聞こえた。
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