プロローグ

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春の温かい日差しがカーテンの隙間から部屋に差し込む。 カーディガンを羽織っていると、今日の気温では寒さなどもう感じない。 この無機質な部屋には何もなく、蛍光灯でさえチカチカと無意味に点滅している。 薄暗い北向きの窓には、この時間しか光が訪れてはきてくれない。 ベッドの上には、一人の女が横たわっている。 毛髪はすべてが白くなり、あちこち抜け落ちてしまい、地肌が目立つ。 顔に刻まれた皺は深く、女が七十代だとは到底信じられないほどに老け込んでいる。 この女が笑ったのを最後に見たのはいつだろうか。 ベッドの脇に備えてある小さな椅子に腰掛けながら、青山千絵はその時を思い出そうとした。
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