プロローグ

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記憶を探れば探ろうとするほど、その輪郭までもがぼやけてしまう。 いくら努力をしても、笑顔ではなく、浮かぶのは悲しんでいる顔。 それも、昔の表情ではなく、今この目の前で寝ている顔でしかない。 自分にとって害のない顔を思い出せないのは、いつしかこの女に対しての愛情が無くなったからだと気づかされる。 千絵は、悠々と使用している大部屋の片隅に置いた鞄を取りに歩いた。 いつもは何かと鞄を小さくしたがる千絵が、今日この大きさを選んだのには訳があった。 いつだか、父親の体型が太くなり始めた時、彼が新しいサイズを買うかと聞いた母に自ら自嘲するように言っていた言葉を思い出す。
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